チーズとの出会いが広げてくれた世界
チーズに魅せられてライフワークから仕事へ。
好きを仕事にする生き方について雪印メグミルクの社員である清田麻衣さんにお話を聞きました。
清田麻衣 / 雪印メグミルク株式会社
Profile:農学系大学院を修了後、香料メーカーで勤務。
2009年から約9か月間渡仏してチーズの熟成と販売を学ぶ。
帰国後の2011年1月に雪印メグミルク株式会社入社。
2022年より同社にてチーズの通信販売事業の立ち上げに携わっている。
最初のきっかけは、モンゴルから
大学時代、私はモンゴル農業大学との共同研究に参加しました。
厳しい自然の中で、家畜とともに暮らし、ミルクからさまざまな乳製品が生み出される営みを目の当たりにしたとき、人間が自然に寄り添い生活する、その姿にとても感動したのを覚えています。
それ以来、乳業の世界で働いてみたい!という気持ちが芽生え、就職活動をしましたが、残念ながら叶いませんでした。

フランス語学校で広がったチーズとの縁
社会人になっても乳製品に対する興味と、探求したいという想いが常にありました。そんな時、たまたまフランスに留学している友人を訪ね、乳製品のなかでもフランスのチーズの種類の豊かさに魅了され、チーズへの興味がどんどんと湧いていったのです。もっとフランスのチーズが知りたい!ーー都内のフランス語学校に通い始め、そこでフランスの酪農家に住み込みでチーズ作り体験をしたことのある方と知り合いました。その方から「フランスでは工場だけではなく、酪農家単位でもチーズを作り、販売している」と聞き、それならば職業としなくても、フランスを旅する人間としてチーズ作りの世界に触れる道が開かれているのでは、と心が静かに高鳴ったことを覚えています。
生産者の想いにふれた旅
それから私は、夏休みや大型連休を利用して、ノルマンディー地方の酪農家をはじめとして、オーヴェルニュ地方やバスク地方、遠くはコルシカ島までフランスの酪農家やチーズ工房を訪れる旅を重ねました。時には訪問する地域のチーズ生産者協会につたないフランス語で手紙を書いて「あなたの地域で作られている伝統的なチーズの製造現場を見せて欲しい」とお願いしました。
そして、生産者の方々に会ううちに、チーズがどのようにできるのか?ということだけでなく、彼らが持っている大切な価値観――例えば、なぜ山村で家畜とともに生き、チーズ作りをする人生を選んだのか、というそれぞれの想いに次第に心惹かれていきました。
旅から戻り、現地で撮影した写真の展示会やビデオ上映会を開催しているうちに、フランスのチーズ生産者たちの想いを伝える媒介者としての自分がいることに気づきました。

本場・フランスでの研修と、「故郷」を考えるきっかけ
生産者を訪ねる旅と並行し、チーズについて学びたい一心で「チーズプロフェッショナル」の資格を取得。資格取得をきっかけに、フランスのチーズ店で働き始めた友人に刺激され、私もフランス・トゥール市の専門店で9か月間販売と熟成の研修(インターンシップ)の機会を得ました。印象的だったのは、フランスの人たちが「自分の土地のチーズ」に並々ならぬ誇りと愛着を持っていることです。地域の人々が地域のチーズを支えている――、そのことは、今でも強く心に残っています。
そしてもう1つ印象に残ったことがあります。働いていたチーズ店の隣には牡蠣専門店がありました。そこの主人は米国企業で勤務するなど多彩な経験を持つ方でした。
私が「なぜ牡蠣を売るのか?」と尋ねると、「自分の故郷、ブルターニュ地方の名産品だから」との答え。自分の故郷のために働くっていいなと思いつつ、「幼いころに引っ越しをしている私は、自分の故郷がない」と伝えたところ、彼は「だったら、自分で決めてしまえばいい!」と。
そう言われても、どこに決めればいいんだろう?ーーその問いがしばらく胸の奥でくすぶっていました。

雪印メグミルクで「日本のチーズの物語」を広げる
帰国後、偶然のご縁から雪印メグミルクに入社することになりました。
かつて夢見ていた乳業の現場です。社内で誘われたイベントでは、日本中の多種多様なチーズ工房が一堂に集まり、自慢のチーズが紹介されていました。
その個性と豊かさにただただ驚き、そこから日本の工房製チーズにのめりこんでいきました。
雪印メグミルク チーズ研究所を知ったのもこの頃です。
2023年時点で日本には350を超えるチーズ工房があり、その成長を実感しています。
「日本にはまだまだ知られていないチーズがたくさんある」――その思いに突き動かされて今日に至ります。
今、雪印メグミルクで、日本のチーズの魅力を伝え、販売する仕事を始めたところです。
フランスでは決められなかった私の「故郷」は、いま思えば「日本」だったのだと思います。
日本で育まれるチーズと、そのチーズ作りに関わる人々の歩みや想い――、物語を伝えていきたい。
人と家畜がともに生きる大地の物語、乳からチーズへと変わりゆく不思議、人生の岐路で導かれてきた出会いと選択。そのすべてが、今日も私の手のひらに小さな、けれどかけがえのないチーズという名の宝石となって結実し、輝いています。

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