イタリア料理研究家 朝倉 絵里子さん 第三回
“イタリア”といえば、パスタの国。もちろん、パスタと言えばチーズは欠かせません。そんなイタリアで料理修行された朝倉 絵里子さんにインタビュー。
朝倉 絵里子/イタリア料理研究家
Profile:雪印乳業㈱(現:雪印メグミルク㈱)宣伝部で9年間、料理に関する業務に携わり、その後、イタリアに渡りピエモンテやトスカーナで4年弱シェフ修行。
現在は自宅でイタリア料理教室を開講。
チーズやワインについての知識も豊富で、ワインアドバイザー資格も有する。
イタリアのチーズ事情
リストランテでのチーズ事情を教えてください
イタリアでは、コース料理にチーズは入っていないんですよ。フランスだとコース料理のデザートの前に入ってきたりするんですけれど、イタリアは入っていなくて。イタリアの人はアペリティーボと言って、レストランに行く前にバールに集まってちょっと飲みながら色々話してリストランテに行く、という風習があって。そのアペリティーボのときに食前酒としてプロセッコなど飲みながらおつまみとして楽しんだり、リストランテではチーズは前菜として使われたり、料理やドルチェに使うことが多かったです。
チーズそのものを楽しむときは、ワインバーのようなお店に行くことが多いかもしれません。オステリアやエノテカという、ワインをメインに料理を楽しめるお店があるのですが、そこではチーズも様々な種類が揃えてあって、例えばペコリーノチーズ一つとっても、フレッシュなものからセミハード、ハードと熟成の期間の違いだけで5種類くらいあり、トリュフ入りやハーブ入りなどもあって、豊富に揃っていました。
もちろん家庭でもチーズは欠かせないイメージがあります。ホームパーティーでは、生ハムやサラミ系と共におもてなしのときには必ず食卓に並ぶ印象です。また、普段の夕食にモッツァレラをそのまま丸かじりしている方もいて、日本ではあまり見かけない光景だったので、「ん?!」と驚きつつ、その豪快な姿にちょっと笑ってしまいました(笑)
イタリアの皆さんは、チーズをスーパーで買われるんですか?それとも、やっぱり専門店などが多いのでしょうか?
どちらもだと思いますね。スーパーにもたくさん種類が置いてありますし。スーパーで売っているのは、比較的手に取りやすい、お手頃価格のものだったりしますし、専門店ではちゃんとこだわって、食材に合わせて選ぶ、というように買い分けているのだと思うんですよね。ちょっといいスーパーだと、奥にチーズ専門のブースがあるので、そちらで量り売りで購入したり、市場でという人も多くいましたよね。専門店は“このシーズンにしかない、この時期のこの地域のミルクだけを使った”とか“季節もの”とか、すごくこだわったものを置いているなという印象でした。
日本ではイタリアのチーズも含め、海外のナチュラルチーズは少し値の張る印象ですが、現地だとお手頃価格で購入できるのですか?
日本の輸入チーズに比べると安く感じるかもしれませんが、イタリアの物価から考えると、実はそれほど安いものではないのかな、と思いました。もちろんスーパー等では安くて買いやすい価格のものもあるので、お手軽価格なものから、高級価格のものまで、選択の幅が広いのかもしれません。
また、ちょっと贅沢でも、美味しいものを楽しむ人が多いのがイタリアの印象で、外食もよくしますし、チーズもちょっと高くてもよく食べる、そんな食材なんだと思います。
チーズはどこのご家庭にもある必需品のようなので、聞いたところ、イタリアでは軽減税率があって平均の税率は22%ですが、チーズは野菜や主食のパスタと同じ税率で4%だそうです。それだけ、日常生活に欠かせないものとの認識なのかもしれません。
イタリア留学中のチーズライフ
留学されていた時はどのようにチーズを楽しんでいらっしゃいましたか?
イタリアは野菜も美味しいので、自宅ではサラダや野菜のグリルにオリーブオイルとパルミジャーノをすりおろして、よく食べたりしていました。
また、地域ごとにその産地のチーズがあるので、現地に行ったらその地域のチーズを楽しんだりしていました。北部は牛乳が原料のチーズが多く、中・南部は羊乳が原料のペコリーノが多い印象で、トスカーナにはペコリーノ・トスカーノ、サルディーニャにはペコリーノ・サルド、シチリアにはペコリーノ・シチリアーノと、それぞれ地域で味わいも違っておもしろかったです。その土地のワインと合わせて楽しんでいました。
朝倉さんの好きなイタリアのチーズは?
ペコリーノ、ストラッキーノ、モッツァレラ、ブッラータ、ゴルゴンゾーラドルチェ…好きなチーズばかりで、きりがないですね(笑)チーズ好きの私が一番喜ぶものだからと、お祝いでタレッジョをひとかたまり丸ごとイタリアの知人から贈られたこともありました(笑)
それはなかなか迫力のある贈りものでしたね(笑)現地で食べて感動したチーズはありますか?
やっぱり筆頭はモッツァレラですよね。モッツァレラ・ディ・ブーファラは新鮮さが命というか、やはり現地ならではの美味しいものが食べられたので。工場まで行って見学をして、できたてと製造後一日経ったもので食べ比べてみたりしました。そこで作られる、できたてのブーファラのリコッタもおいしかったです。
今、日本で人気のブッラータも、最初に出会ったときは感動しました。作りたてはミルク感がすごくあって、ちょっとハマった時期もありました(笑)モッツァレラをスモークしたようなスカモルツァ・アッフミカータは、形もかわいくておいしかったです。
ワインの産地に行くと、ワインの搾りかすに漬け込んだチーズもありました。有名なワインの産地、例えばバローロの産地ではバローロのブドウ、アマローネの産地ではそのブドウ、といったように、高級ワインの産地にはその搾りかすに漬け込んだチーズがあっておもしろかったです。
料理とチーズ
イタリアチーズの特長として、料理によく使われている印象がありますが…
そうですね、ゴルゴンゾーラだったら溶かしてパスタのソースに、マスカルポーネやリコッタはパスタの詰め物に使ったり、ケーキやタルトの材料にも使いますしね。グラナやパルミジャーノはほとんどの料理に使われているんじゃないかと思うぐらいで、“コク出し”での使い方や、「パルミジャーノのリゾット」のようにメイン食材としての使い方もありますよね。モッツァレラはピザはもちろん、ラザニアや「パルミジャーナ」というナスのグラタン等、例を挙げればきりがないですね。
料理教室でも、日頃からチーズを使ったメニューを取り入れていらっしゃるんですか?
日本でもポピュラーなパルミジャーノやモッツァレラはよく使います。ゴルゴンゾーラやマスカルポーネも時々。イタリアのチーズは日本では食材として使うには高価なので、国産で良いものがあれば使ったり、リコッタは牛乳から簡易的につくって、代用したりしています。
イタリア料理でチーズはどんな存在ですか?
印象的だったのは、例えば「カチョエペペ」というローマのパスタ料理で、「カチョ」はチーズ、「ペペ」はコショウという意味で、レストランでも出される料理なんですが、茹でたてのパスタに、たっぷりの削ったペコリーノとコショウを和えるだけなんですが、本当に美味しくて。
日本の卵かけご飯のようにとてもシンプルで、チーズがあればそれでいい、それが一番といった料理が多いですよね。
茹でたお米にオリーブオイルをかけて、パルミジャーノをふりかけただけのご飯を、昨日食べすぎちゃったから胃に優しいものを、なんて言いながら夕飯に食べていたりしたのも印象的でした。
チーズは本当になんでしょうね、料理を助けるというか、チーズさえあれば美味しくなるっていうような存在で、チーズ抜きにイタリアの食は語れない、そんな欠かせないアイテムの一つじゃないでしょうか。
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