「チーズと、生きる。」第三回

~チーズのために働き、ともに生きる人たちへのインタビュー~

第三回 村山重信さん(NPO法人 チーズプロフェッショナル協会 名誉会長)

Profile:1971年、チェスコ株式会社時代にチーズの修行を積み、現在は同社特別顧問を務める。NPO法人チーズプロフェッショナル協会名誉会長であり、チーズオフィス・ムー代表。1989年、フランスチーズ鑑評騎士の会パリ本部より、日本で初めてチーズ熟成士最高位の称号を与えられる。「フランス食品振興会フロマージュレディトレーナー」「アメリカンチーズポロモーションアドバイザー」など、さまざまなチーズ関連の資格を有し、「チーズおじさん」として親しまれる。

日本人が、チーズをもっと楽しむために

心がけているのは「お客さまの話を聞く」こと

20代半ばでチーズに傾倒してから早40年以上が経ちますが、過去の自分が想像していたよりも、日本でのチーズ消費量は拡大していません。日本であまりチーズが食べられない原因、それは我々売り手側の問題が大きいように思えます。
欧米に比べると圧倒的に歴史が浅い食品である以上、日本においては、もっと積極的にチーズの魅力を伝えることが必要なはず。商品POPやパッケージでの説明、そしてなによりも対面販売で、お客さまとチーズについて話し合うことが大事なのです。
今でもたまに、百貨店などのチーズコーナーの店頭に立ち、対面販売を行うことがあります。接客の際に私が心がけているのは、小難しい知識を押し付けるのではなく、お客さまの話をしっかり伺うこと。ホームパーティ用にチーズをお求めのお客さまには、ゲストは何人か、どんな関係の方なのか、どんなワインを飲む予定か等々、あれこれ質問します。お客さまの求めるものをしっかり把握した上で、一番ふさわしいチーズをお薦めする。それが私の接客の極意です。

チーズへのこだわりが詰まったチャート

ナチュラルチーズはそれぞれに個性があり、たくさんの種類の中から好みのものを見つけるのは難しいのですが、一つ指針になる数値があります。私が独自に作成した「塩分値」のチャートで、含まれる塩分量ごとに6段階にチーズを区分したものです。
一般的なプロセスチーズが塩分値「2」程度ですので、それを基準に考えるとわかりやすいでしょう。パンやクラッカーを添えなくともそのまま食べられる、あのしょっぱさが「2」です。
ワインがミディアムボディだったら「5」以下のチーズ、逆に「6」のチーズを食べたいなら、フルボディじゃないと相性がよくない。「6」くらい強烈な塩気をもつチーズは、フルボディのワインの“渋み”を“旨み”に変えてくれるのです。
また、同じ青カビチーズの「ゴルゴンゾーラ」でも、ドルチェは「3」、ピカンテは「6」に近いなど、数値で説明するとお客さまにも納得していただきやすくなります。私のチーズへのこだわりがたっぷり詰まった、自慢のチャートです(笑)。

出典:村山重信 氏

プロのこだわりと“売る技術”に脱帽

このように、お客さまにチーズのことをよりわかりやすくお伝えするため、今でも試行錯誤しながら工夫を重ねています。こんな私が接客術の基本を学ばせてもらったのは、チェスコ時代にお付き合いのあった百貨店の販売員の方々からです。どの方も「お客さまに美味しいと思ってもらうことが、何よりの早道」との信念があり、プライドを持って試食販売にあたっていました。
当時はよく店頭のホットプレートでチーズを温めて、あつあつのものを試食用に出していたのですが、チーズを入れる器がお弁当用の味気ないアルミカップなんです。もっと上等なお皿にしてはと進言したら、薄いアルミカップだと熱くて長く持っていられないので、その場で食べていただける。一番美味しい状態で召し上がっていただければ、きっとチーズの魅力に気づき、買って下さるだろうと。そこまで考えて販売しているのかと、プロの“売る技術”には脱帽させられました。

肩の力を抜いて、気楽にチーズとつき合ってみよう

ここまで、チーズにまつわる様々な話をご紹介してきましたが、我々日本人は少しチーズのことを堅苦しく考えすぎなのかもしれません。もっと肩の力を抜いて、普段着感覚で楽しんでもいいのではないでしょうか。
チーズナイフがなければ、菜切り包丁にクッキングシートを巻けばいい。やわらかいチーズでも包丁にくっつかず、便利ですよ。もちろんシートも破れません。ボロボロと崩れやすいブルーチーズは、タコ糸やもめん糸をぐるりと巻いてカットすればいいし、ハードチーズのスライスは、野菜用のピーラーでも十分にできます。
チーズが少し余ってしまったら、ジッパー付きの保存袋に入れておけば、乾燥を防ぎ、風味も損ないません。牛乳と一緒に煮溶かして、パスタのソースにするのもいいですね。ホットプレートで温めてとろりとさせ、肉や野菜とからめて食べるのも美味しいですよ。海苔や味噌など日本の食材とも良く合いますし、自分なりのスタイルでチーズの世界を広げていってみてください。

※この記事は、2017年2月に実施したインタビューをもとに執筆しています。登場する店名・固有名詞は村山重信さんのお話に基づいて掲載しております。

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