雪印メグミルクトップ お知らせ 名古屋大学と雪印メグミルク株式会社の産学協同研究講座において加齢線虫の連合学習能に餌である大腸菌や乳酸菌が影響することを発見

研究開発

名古屋大学と雪印メグミルク株式会社の
産学協同研究講座において
加齢線虫の連合学習能に餌である大腸菌や乳酸菌が影響することを発見

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の野間 健太郎 准教授らの研究グループは、雪印メグミルク株式会社 (代表取締役社長:佐藤 雅俊、本社:東京都新宿区、以下「雪印メグミルク」) との共同で、線虫C. elegans注1) (以下、「線虫」)を用いて、通常食である大腸菌を摂取させると起こる加齢個体の連合学習能注2)の低下が、乳酸菌Lactobaillus reuteri SBT10010を摂取させると起こらないことを発見し、さらに、その作用メカニズムの一端を明らかにしました。
今後、本研究を発展させることによって、加齢したヒトの脳機能を食事によって維持できるようになることが期待されます。
本研究成果は、2023年5月30日付生命科学分野のオープンアクセス学術雑誌「eLife」に掲載されました。

【本研究のポイント】
・餌として用いた大腸菌や乳酸菌が加齢線虫注1)の連合学習能注2)に影響することを見出した。
・個体寿命と加齢に伴う連合学習能の低下は別々に制御されている可能性が示唆された。
・餌に依存した加齢線虫の連合学習能を制御する因子として、転写因子注3)と神経ペプチド注4)をつくる酵素の遺伝子を見出した。

【研究背景と内容】
ヒトの脳・神経機能は高齢になると低下します。老齢期の脳機能を日々の食事により健全に保つことができれば、我々の生活水準の向上、ひいては高齢社会の課題解決につながります。しかし、ヒトや他の脊椎動物を用いて、食事が脳機能へ及ぼす影響やその作用メカニズムを調べることは容易ではありません。

そこで、名古屋大学と雪印メグミルクは、2017年に名古屋大学大学院理学研究科附属ニューロサイエンス研究センターに、産学協同研究講座「栄養神経科学講座」を設置し、乳酸菌や乳成分の認知機能や睡眠に及ぼす効果とその作用機序の解明を目指した研究を推進してきました。

本研究では、線虫を用いることで、餌がどのように加齢に伴う脳機能の低下に影響するかを調べました。線虫は寿命が2週間と短く、単純な神経系を用いて様々な記憶学習行動を示すことから、加齢による脳機能の低下を調べることに適しています。実験室で飼育する場合の通常の餌である大腸菌を摂取させると、成虫になってから5日ほどで連合学習能が低下しました。そこで、大腸菌の代わりに雪印メグミルクが保有する種々の乳酸菌株を餌として摂取させ、成虫になって5日後の線虫(加齢線虫)の連合学習能が維持される菌を選定しました。その結果、乳酸菌Lactobaillus reuteri SBT10010が、線虫の個体寿命を延長することなく連合学習能を維持することを見出しました。

今回見られた餌の影響は、死菌でも見られたため、細菌に含まれる代謝物などが影響していると考えられます。今後の課題は、そのような代謝物を特定し、大腸菌が線虫の連合学習能を低下させるのか、乳酸菌が積極的にそれを維持するのかを明らかにすることです。また我々は、加齢した線虫の連合学習能に関わる因子として、転写因子注3)や神経ペプチド注4)をつくる酵素の遺伝子を見出しました。

【成果の意義】
本研究は、加齢線虫の脳機能への餌の影響を調べる上で、線虫と餌である細菌の組み合わせを用いて研究する方法を確立した点で意義深く、今後の詳細な分子・神経メカニズム解明の礎になると考えられます。また、線虫の特長をいかして、個体寿命と脳機能老化の両方を測定することによって、個体寿命を延長することなく脳機能を維持する餌の条件を見出しました。通常、ヒトは老化の帰結として死を迎えると考えますが、脳機能の老化と個体の寿命は別々のメカニズムで制御されている可能性が示唆されました。また、ヒトの腸内には大腸菌や乳酸菌など無数の細菌が存在しているので、それらの細菌もわたしたちの脳機能に影響を与えることも考えられます。今回見つかった遺伝子と類似の遺伝子は、ヒトにも存在しています。つまり、餌が加齢による脳機能の変化に与える影響を説明するメカニズムは、ヒトにも存在しうることが示唆されました。今後、さらに研究が進めば、食事により老齢期の脳機能を高く保つことも夢ではないと期待されます。

【用語説明】
注1)C. elegans:非感染性の線形動物で生物学の研究に広く用いられている。世代時間が3日、寿命が2週間程度と短く、たった302個の神経細胞で様々な行動を示す。さらに体長が1mm程度と小さいことから、多個体を用いた寿命や行動の解析が容易である。これらの利点をいかして、我々の研究室では線虫を用いて神経機能が老化するメカニズムの解明に取り組んでいる。線虫は細菌を餌としているので、単一の細菌を用いることにより餌の影響を調べることができる。

 注2)連合学習:二種類の刺激を結び付けて行う学習。線虫はある温度、たとえば23℃で餌とともに飼育した後に、違う温度で餌のない環境に置くと、過去の飼育温度(23℃)に向かう温度走性と呼ばれる行動を示す。逆に23℃で餌がない状態で飼育すると23℃には向かっていかない。このことから線虫は、餌の有無と飼育温度を結び付けて学習していると考えられる。この温度走性行動を、連合学習能の指標として用いた。

注3)転写因子:DNAに書き込まれた遺伝子の情報を読み取って利用するか否かを制御するタンパク質。

注4)神経ペプチド:生物の脳を構成する神経細胞(ニューロン)で主に合成、分泌されるペプチド。ニューロン同士、あるいはニューロンと別の組織とのコミュニケーションに利用される。

【論文情報】
雑誌名:eLife

論文タイトル:Bacterial diet affects the age-dependent decline of associative learning in Caenorhabditis elegans

著者:日暮 聡志1,2,*、塚田 祥雄1,2,*、Binta Maria Aleogho1,*、Joo Hyun Park1、 Yana Al-Hebri1、田中 勝1,2、中野 俊詩1、森 郁恵, 野間 健太郎1
1 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学
2 雪印メグミルク株式会社
*本研究に等しい貢献をした著者

DOI: 10.7554/eLife.81418

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