雪印メグミルクトップ お知らせ 名古屋大学との産学協同研究講座において乳酸菌 Lactobacillus plantarum SBT2227 が 睡眠を促進することを確認学術雑誌「iScience」に掲載されました

研究開発

名古屋大学との産学協同研究講座において
乳酸菌 Lactobacillus plantarum SBT2227 が 睡眠を促進することを確認
学術雑誌「iScience」に掲載されました

雪印メグミルク株式会社 (本社:東京都新宿区 代表取締役社長:佐藤 雅俊)は、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学と協同で、当社保有の乳酸菌Lactobacillus plantarum SBT2227(以下、SBT2227)が睡眠促進作用を有することをショウジョウバエを用いた研究で発見し、2022年7月15日、学術雑誌「iScience」に発表いたしました。

【概要】
睡眠不足およびその蓄積である「睡眠負債※1」は、生活や仕事のパフォーマンスの低下、脳の働きの低下、糖尿病などの生活習慣病のリスクの増加など、心身に様々な悪影響を及ぼすことが知られています。また、日本人の睡眠時間は短い傾向にあるとされており、睡眠は我が国において社会的な関心の高い健康課題の一つです。
当社は、2017年度に国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学大学院理学研究科付属ニューロサイエンス研究センターに産学協同研究講座「栄養神経科学講座」を開設し、睡眠をはじめとする“脳や神経”に関する健康課題を解決するための研究を推進してまいりました。
その結果、単純、かつヒトと共通する多くの行動・分子機構を備えているショウジョウバエを用いた研究において、SBT2227を食べることで夜間開始時の睡眠量が増えること、寝入るまでの時間が短くなること、またこの効果は菌を加熱や破砕しても消失しないことを見出しました。さらにこの効果には、哺乳類の神経系に広く存在する「神経ペプチド」のNeuropeptide Y (以下、NPY)と相同性を有するNeuropeptide F(以下、NPF)の存在が必要であることを明らかにしました。

【研究成果と意義】
今回の研究では、乳酸菌のひとつであるSBT2227が単独で睡眠促進作用を有すること、効果の作用機序には哺乳類に共通して存在する神経ペプチドが関与していること、及びその効果はSBT2227を加熱しても粉砕しても消失しないことを明らかにしました。
これらの結果は、SBT2227がヒトにおいても同様の効果を示す可能性があること、SBT2227が食品やサプリメント等への加工においても利用可能であることを示唆するものです。
ショウジョウバエの行動は単純なシステムで制御されているため、作用機序などの詳細な研究が可能です。そこで、今後はショウジョウバエからヒトまで共通する睡眠の仕組みの解明、そこに対する乳酸菌の作用の解明も期待されます。
さらには、消費者の睡眠ニーズを満たす商品の実用化による社会課題の解決への貢献も期待されます。

【研究内容】
本研究では、①睡眠においてヒトと多くの点で共通する行動・分子機構を備えている、②ヒトと同様に腸内に微生物が共生している、③よりシンプルなシステムで行動が制御されている、④行動とその機序を遺伝学的・分子生物学的に解析しやすい、という利点があるショウジョウバエを研究材料に用いました。
近年、乳酸菌等の経口摂取、乳酸菌を含む腸内細菌※2の存在が、ヒトをはじめとする動物の健康に様々な影響を及ぼすことが報告されています。ラクトバチルス プランタラムは、様々な発酵食品に利用され古くからヒトに摂取された乳酸菌であり、またショウジョウバエの主要な腸内細菌であることから、当社保有のSBT2227株をショウジョウバエに食べさせて睡眠行動を詳細に評価しました。

研究の結果、SBT2227を食べることで夜間開始時の睡眠量が増えることと、寝入りまでにかかる時間が短くなることを発見しました。そこで、SBT2227についてさらに詳しく調べたところ、加熱または破砕したSBT2227を食べさせた場合であってもショウジョウバエの睡眠を促進したことから、SBT2227は死菌の状態であっても効果があることが分かりました。
さらに、破砕した菌体を遠心分離して細胞内容物や細胞内膜成分が多く含まれる上清画分と、細胞壁成分が多く含まれる沈殿画分に分けたところ、上清画分に睡眠を促進する作用があることを見出しました。
これらの結果は、SBT2227の細胞内容物や細胞内膜成分に有効成分が含まれており、その有効成分は熱安定性が高いことを示しています。また、既存の腸内細菌を除去したショウジョウバエにSBT2227を食べさせてもハエの睡眠が促進することから、既存の腸内細菌はSBT2227の作用に影響を及ぼさないことも分かりました。

次に、SBT2227の作用機序について調べました。食べた乳酸菌は、「腸」と接することから、「腸」の遺伝子発現の変化を網羅的に調べました。
その結果、細胞間での情報の伝達を担う分子群である「神経ペプチド」に関連する遺伝子の発現が、SBT2227を食べることで変化していることが分かりました。そこでSBT2227の効果を介在している神経ペプチドを探したところ、NPFという神経ペプチドがSBT2227の効果に必須であることを突き止めました。

興味深いことに、哺乳類にもNPFに類似した神経ペプチドNPYが存在します。SBT2227が「夜間開始時」という限定されたタイミングの睡眠を促進すること、そこにNPFが必要なことは、これまで明らかにされていないNPF(NPY)の睡眠への作用を解明する手掛かりにもなると考えられます。

◆用語説明
※1 睡眠負債:睡眠不足が蓄積し、心身に悪影響が及ぶ可能性のある状態のことです。日本の睡眠不足による経済損失は880~1380億ドルでGDPの1.86~2.92% に相当するとの試算結果もあります。
※2 腸内細菌:動物の腸の内部に生息する細菌であり、これら全体を腸内細菌叢(腸内フローラ)と総称します。個々の腸内細菌は各細菌同士および細菌と宿主(ヒトなど)と代謝物のやり取りなどを通し、相互に影響を及ぼしています。
※3 ラクトバチルス プランタラム:研究開始当初はLactobacillus属に分類されていましたが、2020年に分類が見直され、現在はLactiplantibacillus属に分類されています。そのため、正しくはラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)ですが、本研究ではこれまで一般消費者に馴染みのある旧分類名で記載しています。

◆掲載概要
題 名:Biogenic action of Lactobacillus plantarum SBT2227 promotes sleep in Drosophila melanogaster
(日本語訳:ショウジョウバエの睡眠に対するLactobacillus plantarum SBT2227の生物活性効果)
著 者:神 太郎1,2, 村上 弘樹1,2, 上川内 あづさ1, 石元 広志1
1 国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学
2 雪印メグミルク株式会社
雑誌名:iScience
DOI:10.1016/j.isci.2022.104626

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