牧場通信

北海道 瀬能牧場

牧場名 瀬能牧場
所在地 北海道 岩見沢市北村
開設 昭和11年
規模 年間出荷乳量  平成18年度 785t
平成19年度 840t
平成20年度 900t(見込み)
飼料畑 60ヘクタール
牛の頭数 経産牛93頭。育成牛約30頭
牛舎 繋ぎ(タイストール)

(2008年10月)

北海道岩見沢は、札幌から北、およそ35kmほどのところにあります。石狩平野の中央に位置し、広大、肥沃な大地は北海道有数の稲作地帯です。

北海道・空知(そらち)地区を代表する若手酪農家の瀬能剛さん(39歳)は、今年(平成20年)の北海道ホルスタインナショナルショウで「リザーブチャンピオン」を受賞されました。
優良な牛を育てる技と、その酪農経営についてお話を伺いました。

親子三世代のサイロ

瀬能さんの曽祖父が北海道で酪農を始められました。昭和11年に、おじい様が分家して、岩見沢のこの地で酪農を始められました。
納屋一つに、牛が1〜2頭からはじめ、お父様の代には40頭に規模が拡大しました。
瀬能さんは、研修から戻って21歳から実家の酪農を手伝い始め、25歳で、お父様から経営委譲されました。
瀬能牧場は、現在、三代目です。

牧場には、その親子三代のサイロが建っています。
真ん中のレンガのサイロはおじい様が、左側のタワーサイロはお父様が、右手前のバンカーサイロは、瀬能さんが建てました。

今は、レンガとタワーサイロは使っていません。
でも、先代が瀬能牧場を築き上げてきたシンボルとして壊さず、大切に保存しているのだそうです。
瀬能牧場の成り立ちが思い起こされる風景です。

タワーサイロ レンガサイロ バンカーサイロ

寒さより雪

重機も倉庫の乾草ロールや敷料の間に保管

冬になると岩見沢のこのあたりは、気温が-10℃〜-15℃まで下がり、時には-20℃になることもあります。しかし、寒さより雪の方が牧場にはやっかいで、
雪は一晩に1mも積もることもあり、ひと冬の降雪量が6mにもなります。
平成15年、木造の牛舎の2階が雪で潰れてしまい、牛舎を立て替えました。
新しい牛舎の壁や天井には通気溝となる隙間があり、結露防止対策をして、建物の維持に配慮しています。
雪が多いので、バンカーサイロも屋根付きにしています。
このサイロで乳酸菌を添加されたサイレージは、切り分けながら使用しますが、切り口から二次発酵して腐敗するため、取り扱いには充分に気をつかいます。

各地から来る研修生

取材した日は、酪農家を目指ざす研修生の若者が3名、元気に働いていました。
それぞれ、北海道、岩手、愛媛の出身で、皆さん実家が酪農家だそうです。高校を卒業後、住み込みで、1〜2年研修生として、実地で学んだ後、実家に戻っていきます。

「いかに長く残る牛を作るか」〜品評会にかける夢

将来、有望な子牛

「ホルスタイン共進会」という乳牛ホルスタインの改良を目的とした品評会があります。
全国大会は5年に一度開かれますが、毎年、各地で地区の大会が開かれています。
北海道は、全国でもっとも参加する牛が多い、大きな大会です。
全道共進会は、各地区の予選のうち、未経産6クラス、経産8クラスの上位1、2位が本選へ出場できます。コンテストは2日にわたり行われます。

北海道の大会「ホルスタインナショナルショウ」では、グランドチャンピオン牛と次席のリザーブチャンピオンなどが選ばれます。
共進会での入賞は酪農家にとって、とても名誉なことなのです。

瀬能さんは、お父様に代わり、22歳の時に初めて共進会に牛を出品しました。
それから毎年のように瀬能牧場で育てた優れた牛を出品して今年で19回目になります。
その実績や牛を見る審査眼が高く評価され、26歳から審査員も務められていらっしゃいます。
なぜ、共進会に出品するのですか?の質問に、
『牛舎にいかに長く残る牛を作るかです』と答えられました。
『実際、共進会に出す牛はよくもちますよ。授精は全てホルスタインを種付けし、子牛から有望株を大切に育てます。』
共進会に出品する牛は、背腰が強く、乳房も底面が高く、乳量も出ます。

共進会へ出品する牛は、毎日水洗いし、毛刈り、ブラッシングをして、牛体をきれいに維持する努力をします。事前に歩き方の調教もしておきます。

当日は、時間を調整して、審査時間に乳房のハリが最適になるようにします。
『準備が一番大事』とおっしゃいます。
今年9月27・28日両日、安平で開かれた、北海道ホルスタインナショナルショウ(全道共進会)に出品した、瀬能牧場の「セノーファーム デュック ブレンダ」が、リザーブチャンピオンを受賞しました。

体格審査で、90点以上を「エクセレント」と呼びますが、この牛は、祖母・母・子と3代続くエクセレントな牛なのです。

「リザーブチャンピオン」になった牛を近くで拝見しましたが、体高162cmととても立派で、素人が見ても素晴らしい体型の牛でした。
優れた牛作りの成果は、この牧場の一頭あたりの平均乳量が12,900kl(平成19年度)という数字にも表れています。
能力の優れた牛を、世代を重ねてさらに美しく、強く、育てることは瀬能さんの楽しみのひとつでもあります。

受賞した「セノーファーム デュック ブレンダ」

飼料作り

瀬能さんの畑は、60ヘクタールあり、10ヘクタールをデントコーン。残りは牧草・チモシーを作っています。
岩見沢は、米穀地帯で水田が多いのですが、転作で麦を作る農家も多いのです。今年まで瀬能さんも麦を作っていましたが、割に合わないこともあり、飼料も高騰しているので、来年は、牧草へ切り替えるそうです。


牧草の刈り入れは、一番草は、6月中旬から30ha分はグラスサイレージとしてバンカーサイロに貯蔵します。残りはロールベーラーで1個500Kgの大きさのトイレットペーパーのように巻き、乾草ロールを作ります。8月中旬から2番草はすべてロールベーラーで乾草ロールに調製します。
デントコーンの収穫は、9月末〜10月上旬、バンカーサイロでサイレージとして調製します。
牛の寝床の敷き料は、麦わらで、自作畑以外にも、知人の農家の麦畑からも収穫させてもらうそうです。
麦わらは豊富な地域なのです。
これもロールにして倉庫に保管して使用します。
牧草の、チモシーのロールは、一日1個半を使用。60ヘクタール畑で収穫した粗飼料は、今の頭数分なら春までまかないきれる量です。
牧草などの刈入れは、毎日の牛の世話もしながらこなします。

ポニーのポニ子

牛の他に、シベリアンハスキー(犬)、ポニー、猫、ウサギを飼っています。
ポニーの「ポニ子」は、ここに来て10年。人間で言うと18歳位ですが、牛舎の中に放し飼いで住み、牛と一緒に水を順番待ちして飲みます。ウサギは、レンガのサイロの中で飼われていました。

編集後記

取材するまで、共進会は、美牛コンテストだと思っていましたが、印象がガラリと変わり、乳牛ホルスタインの改良にかける情熱を非常に感じました。
受賞した牛だけでなく、牛舎の牛達全部が、瀬能さんのように自信にあふれた穏やかな顔をしているように思えました。
いつの日か、瀬能牧場の牛が全国大会制覇をされるよう、心よりお祈りしております。

お子さんは3人いらっしゃいますが、まだまだ学校やサッカーが忙しい様子で、後継者となるのは、まだ先のようです。
お子さんが牧場を継ぎ、瀬能牧場に四代目のサイロが建つことを願っています。

瀬能牧場の生乳は、全量、雪印メグミルク札幌工場へ運ばれて、厳しい製造管理のもと、おいしい「雪印メグミルク牛乳」として皆様にお届けしています。
大変お忙しい中、取材へご協力いただき本当にありがとうございました。

(2008年10月)

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